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2026年9月8日
新任施設長シリーズ⑥|優しいだけでは、施設は守れない ― 労務・公平性・職員マネジメントを考える

施設長になると、利用者支援とは違う難しさに直面します。
それが、職員をマネジメントすることです。
昨日まで一緒に働いていた職員に、注意をしなければならない。
勤務上の問題について話をしなければならない。
本人の事情に配慮しながら、組織として守ってもらうことも伝えなければならない。
そんな場面で、
「できれば嫌われたくない」
「頑張っているのだから、少しくらいはいいだろう」
と思うことがあります。
その気持ちは自然なものです。
しかし、施設長が考えなければならないのは、一人の職員との関係だけではありません。
その判断が、他の職員や利用者、そして組織全体にどのような影響を与えるか。
そこまで見るのが施設長の仕事です。
「優しい」と「曖昧」は違う
職員を大切にすることは、施設運営の基本です。
困っている職員の話を聴く。
家庭の事情に配慮する。
体調が悪ければ無理をさせない。
失敗した職員を一方的に責めない。
どれも大切です。
しかし、
遅刻が続いても何も言わない。
決められた仕事が行われなくてもそのままにする。
不適切な言動があっても「本人も大変だから」で終わらせる。
これは、配慮とは少し違います。
問題を曖昧にすることで、その負担を別の職員が引き受けているかもしれません。
一人への優しさが、別の誰かへの不公平になることがあります。
施設長には、そこま で見る必要があります。
公平とは「全員を同じにすること」ではない
職員には、それぞれ事情があります。
子育てをしている人。
家族を介護している人。
健康上の配慮が必要な人。
経験の浅い人。
ベテラン職員。
全員にまったく同じ対応をすることが、公平とは限りません。
必要な人には、必要な配慮をする。
しかし同時に、
「その配慮によって生じる負担を、誰が引き受けているのか」
も確認します。
特定の人だけ夜勤をしない。
難しい仕事をいつも同じ職員が引き受ける。
勤務希望が一部の職員だけ優先される。
それが長く続けば、
「なぜ自分たちばかり」
という感覚が生まれます。
公平とは、
全員を同じに扱うことではなく、違いを認めながら、組織全体として納得できる状態をつくること
です。
職員を守ることと、責任を求めることは両立する
施設長には、職員を守る責任があります。
しかし、「守る」という言葉を、
何をしても責任を問わないこと
と考えてはいけません。
利用者への不適切な言葉遣い。
繰り返される記録漏れ。
勤務上のルール違反。
必要な報告をしない。
こうした問題があれば、事実を確認し、必要なことを伝えます。
これは職員を切り捨てることではありません。
むしろ、
「何を改善すればよいのか」を本人に明確に伝えること も、職員を支えること
です。
曖昧なまま放置して、ある日突然大きな処分をする方が、本人にとっても不誠実です。
指導は「怒ること」ではない
問題が繰り返されると、施設長にも感情があります。
「何度言えば分かるのだろう」
と思うこともあるでしょう。
しかし、感情の強さと指導の質は別です。
例えば、
「もっとちゃんとしてください」
では、本人は何を変えればよいのか分かりません。
それより、
「申し送りで決めた支援方法と違う対応が今月3回ありました。変更が必要な場合は、事前に主任へ相談してください」
と伝える。
事実。
期待する行動。
今後どうするか。
を具体的にします。
施設長に必要なのは、強く言うことではありません。
必要なことを、具体的に、落ち着いて伝えることです。
人格と行動を分ける
職員に問題があると、
「あの人は責任感がない」
「協調性がない」
「管理職には向いていない」
と、その人自身を評価したくなることがあります。
しかし、こうした言葉では改善につながりにくくなります。
見るべきなのは、
人格ではなく、具体的な行動です。
「責任感がない」
ではなく、
「期限までに報告が提出されなかった」。
「協調性がない」
ではなく、
「会議で決定した方法と異なる対応を、相談せずに行った」。
行動で捉えれば、
何を変えればよいのか
を話すことができます。
職員マネジメントでは、この区別がとても重要です。
「頑張っている」で、働き方の問題を隠さない
福祉現場では、
「みんな頑張っています」
という言葉をよく聞きます。
その通りです。
しかし、
残業が続いている。
休憩が取れない。
主任だけが大量の仕事を抱えている。
特定の職員がいつも欠勤者を補っている。
そんな状態を、
「みんな頑張っているから」
で済ませてはいけません。
これは個人の頑張りの問題ではなく、
働き方の設計の問題
かもしれません。
人員配置。
勤務。
業務量。
役割分担。
会議。
記録。
施設長は、
「もっと頑張ってもらう」前に、「この働き方は持続可能なのか」
を見る必要があります。
真面目な職員ほど、黙って疲れていくことがある
施設長が注意したいのは、声の大きい職員だけを見ることです。
要望を強く言う人。
不満を口にする人。
相談に何度も来る人。
そうした職員には目が向きます。
一方で、
頼まれたことを引き 受ける。
ルールを守る。
人の仕事まで補う。
不満をあまり言わない。
そんな職員ほど、静かに疲れていることがあります。
施設長が見るべきなのは、
「誰が困っていると言っているか」だけではなく、「実際に誰に負担が偏っているか」
です。
公平な職場をつくるには、声の大きさではなく、事実を見る必要があります。
配慮には、ときどき見直しが必要
一度決めた配慮が、そのまま何年も続いていることがあります。
当初は必要だった。
しかし、状況が変わっているかもしれません。
本人の状態。
家庭状況。
周囲の職員。
業務内容。
組織の人員体制。
配慮そのものを否定する必要はありません。
ただ、
「今も同じ配慮が必要か」「別の方法はないか」
を定期的に確認します。
配慮を固定化しないことも、公平性を保つうえで重要です。
職員マネジメントの目的は「従わせること」ではない
労務管理や職員指導という言葉には、
「職員を管理する」
という強いイメージがあります。
しかし、施設長の目的は、職員を従わせることではありません。
職員が安心して働ける。
何を求められているか分かる。
困ったら相談できる。
必要な配慮を受けられる。
問題があれば改善する機会がある。
そして、真面目に働くことが報われる。
そんな職場をつくることです。
そのためには、
優しさだけでも、
厳しさだけでも、
うまくいきません。
必要なのは、
配慮と責任。尊重と指導。個別性と公平性。
この両方を見ることです。
施設長の「優しさ」は、組織全体に向ける
一人の職員の話を丁寧に聴く。
それは大切です。
しかし施設長は、その一人だけではなく、
他の職員。
利用者。
そして組織全体を見る立場でもあります。
だから、ときには言いにくいことを伝える。
必要なルールを守ってもらう。
負担の偏りを見直す。
働き方そのものを変える。
それも、施設長としての優しさです。
職員を大切にすることと、職員に責任を求めることは両立します。
優しいだけでは、施設は守れない。
しかし、
人を大切にしない厳しさでも、施設は守れません。
その間で、事実と根拠をもとに判断し 続ける。
それが、施設長に求められる職員マネジメントなのだと思います。
次回
新任施設長シリーズ⑦|会議が変われば、組織が変わる―「集まる」から「決めて動く」へ―
次回は、職員との一対一のマネジメントから組織全体へ視点を広げ、報告だけで終わる会議、不満やできない理由に拡散する会議を、意思決定と実行につながる場へどう変えるかを考えます。


