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2026年9月8日
新任施設長シリーズ① 施設長になった日、仕事は何が変わるのか―「自分から動く」から「組織を動かす」へ

施設長になった日から、昨日までと同じ職場なのに、景色が少し違って見えることがあります。
昨日まで一緒に働いていた職員が、今日からは自分が判断し、支える対象になる。
利用者支援だけでなく、職員、事故、苦情、労務、会議、財務、行政対応――さまざまなことが自分のところへ上がってくる。それこそ押し寄せてくる感覚を持つかもしれません。
新任施設長の多くが、ここで戸惑います。そして真面目で責任感の強い人ほど、「自分がもっと頑張らなければ」と考えます。
しかし、実はここに、支援者から施設長への大きな転換点があります。
「自分ができる」は、施設長になると十分ではない
現場では、自分が動くことで解決できることがたくさんあります。
利用者対応が難しければ、自分が現場に入る。職員が困っていれば、自分が手伝う。急な欠勤があれば、自分が現場を埋める。経験のある支援者ほど、それができます。だから施設長になっても、問題が起きるたびに自分が動きます。
一見、とても頼りになる施設長です。しかし、それを続けていると、少しずつ別の問題が起こります。
主任が育たない。会議の改善が後回しになる。事故の原因分析が浅くなる。支援方法が人によって違ってくる。そして、いつの間にか、「施設長がいないと回らない施設」になってしまいます。
施設長に求められるのは、自分が何でもできることではありません。自分がいなくても、組織として適切に動ける状態をつくること。ここが、支援者と施設長の大きな違いです。
なぜ施設長は「現場に戻りたくなる」のか
新任施設長が苦しくなると、現場へ戻りたくなることがあります。
これは、現場を軽視しているからでも、施設長の仕事から逃げようとしているからでもありません。
むしろ、現場を大切にしてきた人ほど起こりやすいことです。
利用者と関わる。困っている職員を助ける。目の前の問題を解決する。
そこには「役に立っている」という実感があります。
一方、施設長の仕事には、すぐに成果が見えないものがたくさんあります。
人を育てる。会議を整える。労務を管理する。数字を見る。事故を分析する。組織の将来を考える。
今日取り組んだからといって、明日すぐ成果が出るわけではありません。
だからこそ、分かりやすく成果を感じられる「現場」に戻りたくなります。
しかし施設長が現場のプレイヤーになり続ければ、施設長にしかできない仕事が残ってしまいます。
現場を大切にすることと、現場に埋もれることは違います。
「優しい施設長」が抱えるもう一つの難しさ
もう一つ、新任施設長が直面するのが、職員との関係です。
昨日まで同僚だった職員に、今日から注意や指導をしなければならないことがあります。
「嫌われたくない」そう思うのは自然なことです。
すると、問題があっても強く言えない。ルール違反を曖昧にする。声の大きな職員に引っ張られる。
一見すると「優しい施設長」です。
しかし、その状態が続くと、最初に疲れていくのは、きちんとルールを守って働いている職員です。
「あの人は許されるのに、なぜ自分は守っているのだろう」
そんな小さな不公平感が、組織へのあきらめに変わっていきます。
施設長に必要なのは、みんなに好かれることではありません。
利用者の暮らしを守るために、必要なことを誠実に伝えること。
優しさと曖昧さは、同じではありません。
施設長には「孤独」がある
施設長になると、最後は自分で判断しなければならない場面が増えます。
事故。苦情。人事。職員間のトラブル。どれも簡単な正解があるわけではありません。
「あの判断でよかったのだろうか」「もっと別の方法があったのではないか」
そう考えることもあるでしょう。施設長には、ある意味で孤独な立場です。
しかし、孤独と孤立は違います。
主任、他の施設長、本部、外部の専門職。
相談することは、施設長としての弱さではありません。
むしろ、一人ですべてを抱え込み、自分だけで判断するようになることの方 が危険です。
施設長とは「組織を整える人」
施設長は、「偉い人」ではありません。また、「現場で一番支援ができる人」である必要もありません。
利用者の暮らしを守るために、人を育てる。情報が流れるようにする。問題を放置しない。会議を機能させる。ルールを整える。数字を見る。そして、組織が継続して動けるようにする。それが施設長の仕事です。
支援者だったときには、「自分がどう支援するか」を考えていたかもしれません。
施設長になったら、そこにもう一つ、「この組織が、どうすれば良い支援を続けられるか」という問いが加わります。
施設長になるということは、利用者から離れることではありません。
利用者の暮らしを、「自分の支援」ではなく「組織の力」で守る立場になること。
そこから、施設長としての仕事が始まります。
次回
新任施設長シリーズ②|施設長になったら、最初に何を見るか ― まず「見る人」になる ―
新任施設長になると、すぐに何かを変えたくなるものです。しかし、改革の前にやるべきことがあります。
次回は、「利用者」「職員」「数字」「会議」「事故・苦情」などから、施設の現在地をどう読むのかを考えます。


