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2026年9月8日

新任施設長シリーズ⑨ 施設長は、数字から何を読むのか―「現場の感覚」だけで施設を運営しない―

―「現場の感覚」だけで施設を運営しない―

施設長になった途端、目の前に数字が増えます。

利用率。

稼働率。

人件費。

残業時間。

有給休暇。

離職率。

欠勤。

加算。

収入と支出。

予算と実績。

現場で支援をしていた頃には、あまり意識しなかった数字もあるかもしれません。

「数字は事務や経理が見るもの」

そう感じる人もいるでしょう。

しかし、施設長にとって数字は、単なる管理資料ではありません。

数字は、施設の中で起きていることを別の角度から見るための窓です。

数字は「結果」ではなく「問いの入口」

例えば、利用率が下がったとします。

「今月は92%でした」

これだけなら、単なる結果です。

しかし施設長は、そこから問いをつくります。

なぜ下がったのか。

いつから下がっているのか。

特定の曜日なのか。

特定の利用者の欠席が影響しているのか。

新規利用が減っているのか。

入院が増えているのか。

サービスそのものに選ばれにくい理由があるのか。

一つの数字から、いくつもの可能性が見えてきます。

つまり、

数字を見るとは、答えを見ることではなく、問いを見つけること

でもあります。

「今月の数字」だけを見ない

ある月の残業時間が100時間だった。

それだけを見て、

「多い」

と判断することはできます。

しかし、施設長としてもう一歩進めるなら、

先月はどうだったのか。

前年同月はどうだったのか。

どの部署で増えているのか。

誰に集中しているのか。

何曜日に多いのか。

何の業務で発生しているのか。

と見ていきます。

数字は、一つだけでは意味が分かりにくいものです。

時間で比べる。部署で比べる。人で比べる。目標と比べる。

比較することで、数字に意味が生まれます。

平均値だけでは見えないものがある

例えば、職員一人当たりの月平均残業時間が10時間だったとします。

一見、大きな問題はないように見えます。

しかし実際には、

多くの職員はほぼ0時間。

一部の主任だけが40時間、50時間。

という状態かもしれません。

平均すると、その偏りは見えなくなります。

利用者支援でも同じです。

施設全体の平均だけを見ると、個々の部署や時間帯で起きている問題が隠れることがあります。

施設長が数字を見るときには、

「平均はどうか」だけではなく、「ばらつきはどうか」

を見ることが重要です。

数字が悪いからといって、すぐ「現場が悪い」と考えない

利用率が低い。

残業が多い。

収支が悪い。

数字が悪化すると、

「もっと利用者を増やしてください」

「残業を減らしてください」

「経費を削減してください」

と言いたくなります。

しかし、数字は結果です。

その背景には理由があります。

例えば残業が増えているなら、

職員が非効率なのか。

欠員があるのか。

記録に時間がかかっているのか。

会議が多いのか。

勤務の組み方に問題があるのか。

業務そのものが増えているのか。

原因によって、打つ手はまったく違います。

数字を見て、人を動かす前に、数字の背景を見る。

これが施設長の役割です。

「数字」と「現場」を往復する

②では、施設長は現場を見ることが大切だと考えました。

しかし、現場を見ているだけでは気づけないこともあります。

例えば施設長がフロアを歩いて、

「最近、職員が忙しそうだ」

と感じたとします。

そこで残業時間を見る。

特定の部署だけ増えている。

さらに勤務表を見る。

欠勤が続いている。

業務を見る。

ある仕事が一人の主任に集中している。

ここまでくると、

「忙しそう」

という感覚が、

具体的な課題

に変わります。

逆もあります。

数字を見て、

「残業が増えている」

と気づいたら、現場へ行く。

職員に聞く。

業務を見る。

なぜ増えているのかを確かめる。

大切なのは、

数字だけを見ることでも、現場の感覚だけを信じることでもありません。

数字から現場へ。

現場から数字へ。

この往復によって、施設の実態が見えてきます。

収支を見ることは、福祉を捨てることではない

福祉の現場では、

「お金の話ばかりするのは福祉らしくない」

と感じることがあります。

しかし、良い支援を続けるためには、組織そのものが続かなければなりません。

赤字が続けば、

必要な職員を配置できない。

設備を更新できない。

研修に出せない。

新しい取り組みができない。

最終的には、利用者への支援にも影響します。

だから施設長は、

支援の質と経営を対立させない

ことが大切です。

節約すればよい、という話でもありません。

必要なところにはお金を使う。

無駄なところは見直す。

将来必要になる費用も考える。

収支を見ることは、

良い支援を続けられる条件を整えること

でもあります。

「売上」ではなく、サービスの動きを読む

福祉施設では、一般企業のように単純に「売上を増やす」と考えにくいところがあります。

だからこそ、

利用率。

稼働率。

定員。

欠席。

入退所。

新規利用。

加算の算定状況。

などを見ます。

例えば利用率が下がっている。

その背景が、

長期入院の増加なのか。

利用希望者が減っているのか。

相談支援事業所からの紹介が減っているのか。

サービス内容が地域ニーズと合わなくなっているのか。

によって意味はまったく違います。

数字を見ることで、

「私たちのサービスは、地域からどう利用されているのか」

という視点も持てるようになります。

加算は「取れるものを取る」だけではない

施設運営では、加算も重要な数字です。

しかし、

「取れる加算は全部取りましょう」

だけでは不十分です。

その加算は、何を評価しているのか。

どのような支援体制を求めているのか。

必要な人員はいるのか。

記録や実施内容は伴っているのか。

継続して算定できるのか。

を見る必要があります。

加算には、

制度が「こういう支援や体制を評価します」と示している側面

があります。

施設長は金額だけを見るのではなく、

「この加算は、私たちに何を求めているのか」

まで考えます。

数字を職員を責める道具にしない

数字は便利です。

しかし、使い方を間違えると、

「あなたの部署は残業が多い」

「利用率が低いのは努力不足だ」

「目標を達成していない」

と、人を追い込む道具にもなります。

そうなると、職員は数字を嫌うようになります。

場合によっては、

悪い数字を出したくない。

問題を報告したくない。

という方向に進むことさえあります。

数字は、

誰かを責めるためではなく、組織の状態を一緒に考えるために使う。

例えば、

「残業が増えています。誰が悪いのでしょう」

ではなく、

「この3か月で残業が増えています。何が変わったのでしょう」

と問いかける。

同じ数字でも、使い方によって組織への影響は大きく変わります。

数字を増やしすぎない

施設長になると、

「あれも把握した方がよい」

「これもデータを取ろう」

と考えます。

しかし、数字を増やしすぎると、今度は見ること自体が仕事になります。

毎月たくさんの表を作っている。

しかし、誰も見ていない。

数字を入力するだけで終わっている。

会議で読み上げているだけ。

これでは意味がありません。

大切なのは、

「この数字を見て、何を判断するのか」

が明確であることです。

例えば、

利用率。

人件費率。

残業時間。

欠勤・離職。

収支。

事故件数。

など、施設の状態を見るうえで重要な数字を絞る。

そして、定期的に見る。

変化があれば掘り下げる。

数字は、多ければよいのではありません。

判断につながる数字を持つこと

が重要です。

「赤・黄・青」で見るだけでも変わる

数字に苦手意識がある施設長は、最初から複雑な分析をする必要はありません。

例えば、

目標どおりなら青。

注意が必要なら黄。

すぐ確認が必要なら赤。

というように、簡単に見える化するだけでも違います。

利用率。

残業。

人件費。

欠勤。

収支。

などを毎月並べる。

すると、

「今月、何を見るべきか」

が分かりやすくなります。

施設長が必要なのは、統計の専門家になることではありません。

異変に気づき、必要なところを詳しく見ること

です。

数字には「早く気づく」力がある

問題が大きくなってから、

「そういえば、少し前から変だった」

と気づくことがあります。

しかし数字を継続して見ていれば、

利用率が少しずつ下がっている。

残業が3か月続けて増えている。

欠勤が増えている。

特定の加算が取れなくなっている。

収支が徐々に悪化している。

といった小さな変化を早く捉えることができます。

一回の数字だけなら偶然かもしれません。

しかし、

変化の方向

を見ると、施設の兆候が見えてきます。

数字は、

問題が大きくなる前に気づくためのセンサー

でもあります。

施設長は「数字を報告する人」から「数字で問いを立てる人」へ

施設長会議で、

「今月の利用率は95%です」

「残業は120時間でした」

「収支はマイナス50万円です」

と報告する。

それだけなら、数字を読み上げているだけです。

施設長として一歩進むなら、

なぜこの数字になったのか。

先月と何が変わったのか。

このまま続くとどうなるのか。

どこを確認する必要があるのか。

何を変えるのか。

まで考えます。

数字 → 問い → 現場確認 → 判断 → 行動

へつなげる。

ここまでできて、数字が施設運営に生きてきます。

「感覚」と「数字」の両方を持つ

長く現場にいると、

「何となく最近おかしい」

という感覚が働くことがあります。

その感覚は大切です。

数字だけでは見えないものがあります。

利用者の表情。

職員の疲れ。

職場の空気。

家族との関係。

数字には表れにくい変化もあります。

一方で、

「うちは大丈夫」

「職員はよくやっている」

「利用者も満足していると思う」

という感覚だけでは、見落とすものもあります。

だから施設長は、

現場を見る目と、数字を見る目の両方を持つ。

数字で違和感を見つけたら現場へ行く。

現場で違和感を感じたら数字を確かめる。

その往復を続けることで、

施設の現在地が、少しずつ見えるようになります。

施設長に必要なのは、数字に強いことだけではありません。

数字の向こう側にある、利用者・職員・支援・組織の動きを想像できること。

それが、数字を施設運営に生かすということだと思います。

次回

新任施設長シリーズ⑩|施設長の仕事を「仕組み」に変える― 自分がいなくても回る施設へ ―

最終回は、これまでの①〜⑨をつなぎます。

施設長自身が頑張るだけではなく、役割、情報、会議、支援、人材、事故対応、数字などを「仕組み」として残し、自分が不在でも組織が動ける状態をどうつくるかを考えます。

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